フランクロイドライトの帝国ホテル NO.8 客室棟
<客室棟>
これまで6回に渡って帝国ホテルの主要な空間を取り上げてご紹介してきました。今回は主要空間の最後となりますが客室棟です。 今までこの建物全体の平面計画について触れずじまいでした。 帝国ホテルを御覧になっていない方のために、簡単にその概要を説明させていただきます。
帝国ホテルのプランは東西に川の字を置いた形になっています。そして東及び西からみて完全なシンメトリーな立面で構成されています。 この川の字の真ん中の位置、すなわち主要棟と言われる棟に西から順番に、池、メインエントランス、ロビー、メインダイニングルーム、プロムナード、オーデ ィトリウム、バンケットホールとこれまで紹介してきた空間が配置されています。 そして川の字の両脇の位置すなわち北と南の位置に今回紹介する客室棟が配置されています。
これらの東西に伸びる3棟は、西側はロビーの位置でブリッジによって、東側はプロムナードによって繋がっています。
帝国ホテルはライト建築の特徴で空間と空間が連続的に繋がっていますので、一般的に建物の大きさを示す表現方法の何階建と言う言い方が出来ない建物ですが、この客室棟は、さすがに客室という性格上その表現方法が使えます。すなわち3階建てとなっています。
<天皇の入り口>
南北両棟の東端と西端にレセプションルーム(迎賓室)、今風で言うとスイートルームが配置されています。そして西端のレセプションルームには外部からの専用の入り口が設けられています。
実際の運用上は定かではありませんが、特に北西端のレセプションルーム入り口をライトは著書「テスタメント(遺言)」で天皇の入り口と記しています。
<レンガと大谷石で構成されるディテール>
客室の外観と言うと、現在でもそうですがどうしても単調なデザインの繰り返しになってしまいがちですが、さすがにライトはその辺は違います。
1、2階を基壇部としてがっちりとした重厚なファサードで作り、3階を連窓と軒ルーバーで軽快なデザインに仕上げています。
そして1、2階基壇部の40フィート(約12m)ごとに配置されているバルコニーが単調になりがちの壁面に変化を与えています。しかもレンガと大谷石で構成されるディテールは圧巻です。
さて客室内部ですが、そのデザインはこれまで見てきた華やかな空間とは全く違い、シンプルなデザインになっており意外性を感じます。
備え付けの家具や暖炉にライト的なディテールが見られますが、全体には落ち着いた雰囲気にして個室としての機能をよく考え、必要以上のことはしていません。
この辺にも以前にラウンジの項でも書きましたように、いたずらに装飾を追うのではなくその空間、その場所に何が必要かを常に考えたライトの知性を感じさせます。
帝国ホテルの一部のみを見てライトを装飾過剰と言う批判は全く当たりません。
この13年後に完成する帝国ホテルのデザインと全く対極にある落水荘(1936年)のデザインを見ればライトの泉の如く湧き出る幅広いその才能を誰もが認めざるを得ません。